大地主と大魔女の娘


押しかけた我々を出迎えたのは、巫女王様お側付きの騎士――スレンだった。

 顎をそびやかし、侮蔑を込めて睨んでくる。


「何なの君たち? 彼女は今、体調が優れないと言うのに。大勢で押しかけたりなんかして無礼にも程がある。出直して」

「よいのです」

「だって、君」

「スレン。いいと言っているでしょう?」


 スレンを静かにたしなめると、巫女王様は微笑まれた。いつものように。

 慈愛に満ちていながらも、威厳を感じさせるたたずまいに獣も大人しくしている。

 獣といっても先程までの話だが。


「急にすまぬな」

「構いませんよ、神官長。一体どうしたと言うのですか? 団長と副団長まで」


 巫女王様はそう仰って、我々を順に見比べる。そして最後には見慣れない騎士へと視線を止めた。

 物珍しそうに、獣であったもの――デュリナーダを眺める。

 そこには好奇心と歓迎の込められた眼差しがあった。

 失礼ながらも、こういう所が巫女王様を少女のように見せると思う。


 勧められるままに腰を下ろしたが、茶はやんわりと断った。シオンも同じく。

 水分なら先程、充分に補給したばかりだ。


「まあ。新しい騎士団員かしらね?」

『デュリナーダだ』

『そう。はじめましてデュリナーダ。わたくしはここで王をつとめる者よ』


 獣に合わせて、巫女王様は古語で返された。


『そうか。王をつとめる者。おまえも美しいな』

『まあ、ありがとう』


 獣の声には素直な感嘆が読み取れた。

 心底しみじみと呟かれたそれに、巫女王様の頬にうっすらと赤みが差した。

 その様子にじいさんが小さく「見習え」と、前を向いたままで呟いた。

 やたら大きな小声があるものだ。無視を決め込む。


「当然でしょ。オマエも身の程をわきまえるんだね。獣ふぜいが」


 スレンがイラ付いた様子で、デュリナーダを見下す。

 さすがというべきか、スレンはとっくにデュリナーダの正体を見抜いていた。

 巫女王付きは、だてではない。


「何の用? さっさと済ませて出ていってくれないか。彼女には静養が必要なのだから」


 確かに長居はよろしくないだろう。いくら巫女王様がお許しになっていても、だ。

 スレンの機嫌の悪さからも計れるように、巫女王様の体調はここのところ優れないと聞く。

 だからせめてと口数少なく気配も殺し、こうして大人しく控えている。


「いやはや。この者が新しく巫女の騎士に名乗りをあげましたのでな。お二方にご挨拶に参ったしだい」

「四つ足ごときが?」


『我はエイメの心に寄り添う。相応しい騎士に成った。騎士は巫女の王に挨拶するものだと聞いたから、こうやって来たのだ』


「なるほどね。それでその姿って事か。だから何だと問うている四つ足」


 嫌悪感も露なスレンに、さすがのデュリナーダも怯み気味のようだ。いい気味だ。


 
< 420 / 499 >

この作品をシェア

pagetop