大地主と大魔女の娘

スレン、といい置いてから巫女王様は手を差し伸べた。

 小さくケホケホと咳き込まれた。すぐさまスレンがショールを掛けて気遣う。


『いらっしゃいな、お利口さん』

『おお。我はイイコだぞ。だからエイメの騎士だ』

『そうね。あなたも乙女を守りたいと願ってくれるのね。ありがとう』

『どうという事はない』

 獣であった時と同じように、デュリナーダが胸を張った。

 そんな獣に容赦の無い非難の声が上がる。


「獣、口のききかたがなっていない。それで騎士と名乗りをあげるだなんておこがましい。恥を知れ」

『何を。我は相応しい騎士ぞ』

「あっそう。どこが?」

『エイメは我がいてくれて心強いといつも感謝してくれた。実際その通りだからだ。我がいる。エイメの恐れる騎士団の男たちの手を煩わせずとも済む。だからありがたい、とエイメは我が側にいることを望んでくれていた。だから我は出歩いたりもせず、エイメの側を離れなかった。片時も!』

「……へぇ。巫女王候補の恐れる騎士団ねえ?」


 獣が得意げに説明するうち、ほこ先はこちらに向き始めた。

 わかっている。元はといえば俺たちの落ち度だ。



「いやはや、すまなんだのぉ。若造共が張り切り過ぎてのー。力加減を誤ったんじゃ。だから先程、謝罪に行ってきたばかりじゃからな。そう睨まんでやってくれんかのー?」


 じいさんがのんびりとした調子で口を挟んだ。このジジイの特技のひとつだ。


「あらあら。張り切り過ぎただけなのね。次からは気を付けたらいいじゃないの。ねえ、二人とも?」


 巫女王様もやんわりと俺達をかばってくれた。

 この二人、巫女王様と神官長は言葉交わさずとも暗黙の了解が存在しているのは間違いない。

 いつも何かとこうやって庇われてしまう。


「は。次からは気を付けます。充分に」


 素直に頭を下げる。シオンも渋々といった調子で同じように倣った。


「まあ、いいけど。僕も忙しくてエイメを構っている暇がないのも悪いんだし。エイメの退屈しのぎになるのならそれで良しとしよう。だからといって調子に乗るんじゃないよ? 獣も、君達もだ」


 念を押すスレンは何様かと思ったが、あえて言い返さなかった。巫女王様の御前だ。

 いらぬ諍いは避けたい。だが後で覚えておけよ、と頭を下げつつも心の中で誓う。


『何、心配いらない。我がいる。そなたが忙しい分、我がエイメといるから何の心配も無いぞ!』


『デュリナーダ。あまり騒がないように』


 誰かこの獣を黙らせてくれ。

 
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