大地主と大魔女の娘
たしなめるために唸るように名を呼んだが、デュリナーダのおしゃべりは止まらなかった。
『今までみたいにずっと我が付き添う。そうでなければ、エイメは寂しがるからな。夜だっていつも寂しいといって泣いて、なかなか寝付けないでいるから、我が一緒に寝てやらなければ! エイメは本当に手の掛かる子だ。我が抱っこされてやりながら、涙を舐めとってやらねば眠れないのだから。そうそう。身を清める時もちゃんと見張っていてやるのだ』
『何だと!?』
巫女王様の御前だというのも忘れ、思わず声を荒らげてしまった。
じいさんが視界の端で肩をすくめたのが見えた。
「我、シオン・シャグランスが眼前の獣、デュリナーダよりも高みに立つ!」
シオンも、おそらくは無駄と知りつつも聖句を紡ぎ始めた。
頭に血が上るとはこういう事を言うのだろう。
獣だった事をいいことに、やりたい放題だったデュリナーダに切りかかってしまいそうになる。
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『静粛に!』
パン、と子気味良い一打ちが響き渡る。
音の方を振り返れば巫女王様だった。
騒然となりかけた場を、一息で鎮めてしまった。
『デュリナーダ、それは騎士の役目ではなくてよ?』
『そんな事は……。』
『デュリナーダ。それは側使えの女の子達の役目よ。貴方は騎士なのでしょう? だったらそれらしく振舞うこと』
『うぐ。いけないのか?』
『いけません。お嫁入り前の乙女と殿方の寝室は別々です。わかりましたね?』
『……。』
『わ か り ま し た ね ?』
『じゃあ、エイメと一緒に居られないではないか。我はエイメの騎士なのに』
納得できないでいるらしいデュリナーダに、巫女王様は満面の笑みで答えた。
『乙女の騎士は乙女自身に任命してもらいましょう。それがしきたりですから。ねえ、スレン。神官長?』
「そうじゃの」
「やるの? 剣術大会」
「ええ、そうよ。わたくしの時もそうして騎士を決めたもの」
全員を見渡して、巫女王様は大会の開催を告げた。