大地主と大魔女の娘
第四章 最後の剣術大会
神殿の子供たち
神殿に上がってどれくらいたったのか。
それなりに馴染んでゆく。
昼間は主に、小さい子達の面倒を見ることになった。
「巫女ひめさま、じゃあ今日も古語を教えて!」
「はい」
幼くして「能力者」として神殿に上がった子達。
そんな年端も行かない幼子が親元を離れてここで生活して行くのは、大変な事だ。
ましてや日が浅い子となるとなおさらだった。
昼間はいたって快活にしているように見えても、夜更けになるとぐずり出す事もしばしばだ。
そんな子供たちをあやして、寝かしつけるのも私の役目となった。
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「おか――しゃま―――!! かえる――! おうちに、かえる―――!!」
今一番夜泣きが酷いのはミリアンヌ。彼女はまだ五つなのだから無理もない。
小さな身体からはびっくりするくらい大きな声が出るものだ。
いつもその事に感心してしまう。
抱っこしてゆすってやりながら、ひたすら身体をさすり、いい子いい子と繰り返しささやいてやる。
「おかあしゃま、ひっく、かえる」
ミリアンヌは帰れないことを知っている。
だから昼間は大人しくしている。一言だって「帰る」だ等と言わない。
だが夜の闇がミリアンヌを不安にさせる。
胸元にしがみついてくる幼い身体を包むように抱きかかえて揺する。
「巫女ひめさま」
そう私を呼んでそっと衣の裾を掴むのは、キルディ。七つの女の子だ。
この間まで一番甘えっ子だった。今はミリアンヌに遠慮してか、あまり抱きついてこなくなった。
代わりにこうやって、特に夜泣きが酷い子のための別室に付き添ってくれる。
自分よりも小さいミリアンヌを気遣い、私の事も気遣ってくれているのだ。いじらしい。
「なぁに? キルディ」
「巫女ひめさま」
キルディをはじめとして、女の子たちは私をそう呼ぶ。
ちなみにキーラやフィオナは「巫女のお姉さん」だ。
「巫女王候補というのは何だかわからないがエライ人になるのかもしれない。でもあんまり巫女王様みたいな感じもしない」という事で落ち着いた呼び名らしい。子供らしい微笑ましい発想だと思う。
正直、お姫様だなんてがらではないので面はゆい。