大地主と大魔女の娘
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確かな地位を築きたいと切望する者ならば、誰でもこの機会を見逃すまい。
俺は何のためにそう願ったのだろうか?
確かにそう強く願ったはずなのに、はっきりとした言葉で言い表せない。
レメアーノが低く構え、こちらに向かって飛び込んできた。難なくかわす。
ほつれ落ちた前髪の間からのぞく瞳が、愉快だと言わんばかりに輝く。
そらさず、迎え撃つべく構える。
考えを巡らせる。浮かんだのは鮮やかな緑の瞳。
瞳をふせる事のないルゼ。ジャスリート家の公爵令嬢。高嶺の花と崇めたはずの女性。
その姿にかつては魅せられた。だがその勝気な瞳はかき消えた。
代わりに浮かび上がったのは、あたたかな闇色の瞳だった。
今、この目に焼き付けたいと願うのは、あの伏せられがちの瞳だ。
どうかこちらを見て欲しい。そして俺を焼き付けてやりたくてたまらない。
レメアーノは後ろに回り込み、斜め上から剣を振り下ろしてきた。が、そう思わせておいて素早く身を引くと、俺の背を狙う。
太刀筋を見せないためだろう。負けじと身体をひねって飛び退く。
「スキありだ、レオナル」
ガッ……キィン!!
金属のぶつかり合う音が響く。
暗がりの中、火花が飛び散る。
お互いの力をぶつけ合う中、渾身の力で振り払った。
キィィン!!
レメアーノの剣が空を舞った。
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「参った! もう今日はこれくらいにしようぜ」
「まだだ。もう一戦。剣を拾えレメアーノ」
「勘弁してくれよ」
お互いにらみ合いながら様子をうかがう。
ふと視界の端に明かりが見えた。
「誰だ!?」
呼びかけたとたん、明かりが大きく揺れた。返事はない。
わずかな明かりを頼りに気配を探る。
訓練場の周りを取り囲む回廊は静かだった。
「?」
レメアーノと顔を見合わせてから、出入口へと進んだ。
おそらく団員の誰かだろう、という予想は大きく外れた。
夜の暗がりの中、ほっそりとした儚げな肢体が揺れている。二つ。
「エイメ様……。」
レメアーノが呟いたのを聞いた。まるで抑揚のないその調子が、驚きを物語っている。
おそらく、夜着の上にショールを羽織っただけと思われる無防備な姿。細く白い足首や、すんなりと伸びた腕に、後れ毛の遊ぶ項――。
不安そうに揺れる眼差しで真っ直ぐに見つめてくる。
引き結ばれていた唇がほころんだ。
「あの。こんばんわ」
めまいを覚えた。