大地主と大魔女の娘


 「エイメ様……! あなたはまた、こんな夜更けに、何故このような所へ」

 慌てて声を低めた。大きな声をだしてはいけない。

 だがどうあっても動揺は隠せない。心配のあまり覚える苛立ちも。

 努めて平穏なふりを装ったのだが、やはりそこは何かを感じ取ったのだろう。

 エイメ様の瞳が潤んだように見えた。

 口をとじ、頭を振りながら一歩近づく。だが、一歩下がられてしまった。


「エイメ様」

 なおも慎重に一歩踏み出してみたが、同じ事だった。

 それでも、歩幅が圧倒的に違うせいで距離は縮まった。

 レメアーノは何も言わず、黙って汗をぬぐっている。


「エイ、」

 諦めずにしつこく一歩踏み出したが、小さな人影に阻まれた。

 エイメ様の傍らでランプを持ち、彼女の手を握り締めていた幼女だ。


「おひかえください、騎士様」


 精一杯なのだろう。大きく発せられた声は語尾が震えていた。


「わたしは巫女見習いのキルディ・クラウゼと申します。巫女ひめさまのお供で、一緒に、お願いに参りました」


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 お願い?

 レメアーノと顔を見合わせた。真剣な眼差しに見上げられていた。

 キルディと目線を合わせるために跪く。


「聞こう、キルディ。お願いとは?」


「小さい子達が怖い音がするって寝られないの」


「怖い音?」

「きぃン、っていう音が寝る時にするの怖いの。みんな」


 
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