大地主と大魔女の娘
キルディは言いにくそうに、身体を揺らしながら訴えた。
小さな頭にふわりと優しく手が置かれた。エイメ様だった。彼女もまた腰を折り身をかがめた。
「キルディ、ありがとう。あの、すみません。そうなのです。ここ三日ほど、
子供たちが寝る時間になっても剣がぶつかり合う音が響いてきて、
怖がるのです。まだ小さい子達だし、
それにとても敏感な子達なので必要以上に恐れてしまって……。
申し訳ありませんが、遅い時間の訓練は控えていただけるとありがたいのですが」
そう申し訳なさそうに言われ、慌てて頭を下げた。
「申し訳ありません。俺の考えが足りないばかりに、子供たちを怯えさせてしまいました。わかりました。この時間は控えます」
訴えはもっともだった。幼くとも術者としてここに上がった子供たちの神経は敏感で、夜泣きも酷いとは聞き及んでいたのに。ひどく申し訳なく思う。
「キルディもすまなかった。今後、このような事がないようにする」
「はい。ありがとうございます」
「さあ、もう遅い。部屋までお送りいたします。ところでエイメ様?」
緊張していた二人がほっとした様子で表情を緩めたのだが、俺は声を低めた。
「はい?」
「エイメ様。俺が悪かったせいだというのは充分に承知しています。しかしですね、このような時間に巫女だけで歩かれるのは感心しません。暗がりで――危ないとは考えないのですか」
確かに俺が悪かった。エイメ様も子供たちを思いやっての行動だろう。
だが、それとこれとは話しが別だ。
今後の事も考えて、諌めるために言わせてもらう。
「危ないのですか?」
少女は小首を傾げた。あどけないおさな子がそうするように。
「だって。神殿には護衛団の方がいらっしゃって下さるのですもの。安心ですよね」
――この既視感は何とする?
どこが危ないのだという無邪気な切り返しに、言うべき言葉が見つからない。
何だ。どう説明しろという。なんなら暗がりに引きずり込んでやればいいのか?
後ろから抱きすくめて、声が出せぬように押さえ込まれてみればいい。
二度と暗がりを女だけで歩こうなどとは考えも及ぶまい。それとも……。
「団長。ここはひとつ期待に応えて、お二人の護衛を務めるとしましょうよ」
ぽん、と軽い調子で肩に手を置かれた。