大地主と大魔女の娘
女の子たちが興奮する中、キーラが両手を打ち鳴らした。注目を集める。
「こらぁ。いい加減にして、もう寝るよ……っと!?」
キーラが、大きなため息をつく。
それから口の中だけでもごもごと文句らしきものを言ったようだった。誰にあてるでもなく。
キーラは戸口に見え隠れする大きな影に私を見てから、もう一度同じように呟いた。今度は少し大きな声で。
「まったく騎士の名にかこつけてこんな夜更けに押しかけてきてこっちは寝間着だっていうのに」
不機嫌そうに眉をしかめたキーラに、眼差しだけですがる。仕方がないなあ、というように肩をすくめられた。それから咳払いをひとつして、いつも通りの彼女らしく冷静な対処をしてくれる。
「元凶殿達はここへは何用でございましょうか?」
「謝罪に。子供たちを怖がらせたし、あなたがたにも迷惑を掛けてすまなかった」
レオナル様が戸口の影から、遠慮がちに頭を下げた。レメアーノ様もそれに倣う。
「それはそれは。わざわざご足労をおかけ致しました。こちらこそ申し訳ありませんでした。ちょっと目を離したすきに……エイメ様?」
「ご、ごめんなさい」
私も慌てて頭を下げる。
そうだ。理由はどうあれ、また勝手に抜け出すような格好になってしまって、皆に迷惑をかけたのだ。
「もう少しでも戻るのが遅かったら、捜索隊を派遣していたんですよ?」
「う、はい。ごめんなさい、もうしません」
「エイメ様」
「はいっ! 申し訳ありませんでした」
レオナル様の低く私を呼ぶ声に、反射的に謝っていた。
また自覚が足りないと怒られる、と身構える。
だが、思ったような叱責は降ってこなかった。
そろりと目線を上げれば、ためらったように目線を泳がせてから、こちらに歩み寄ってきた姿があった。
扉からこちらへは巫女達の居住だ。さすがにキーラが本気で慌て出す。
それすらもレオナル様は、申し訳なさそうに目線を下げただけで黙らせてしまった。
彼の歩幅にして、ほんの二、三歩。
その間を嫌にゆっくりと感じた。ただ惚けたまま、それを感じていた。
彼のおもたそうな靴が視界を占めたと思ったら、深い青色の瞳が目の前にあった。
「あなたにもご迷惑をおかけして申し訳なかった。勝ち抜くことしか頭に無く、考えの足りなかった俺をお許しください」
この上なく真摯な眼差しに射すくめられて、どうにか頷く事しか出来ない。
レオナル様の瞳が優しく細められた。
「このレオナル、巫女姫様のために尽力をつくします。その暁にはどうか御そばに」
いつの間にか取られていた右手に、柔らかな感触が押し当てられる。
小さな女の子たち全員が、息をのんだのがわかった。
「今度の大会、あなたのために必ず勝ちます」
これには今度、どよめきが起こった。