大地主と大魔女の娘
ピィリリリリリ!
朝もやの立ち込める中、シュリトゥーゼル達が鳴き交わしながら、すぐそばまで飛んできた。
ついと指先を差し伸べれば、生きた細工もののような小鳥が羽根を休めた。次々とほかの子達も舞い降りてくる。
ピィチチチ! ピロロロロ――ォ! チュゥイ、チュゥイ、チュイィ!!
「ふふ。ええ、ひさしぶり。ごめんね、元気だった? みんな」
威勢良くさえずる鳴き声に答える。会えた嬉しさ半分に、居なくなった事に対する文句が入り交じったものだった。
「ごめん、ね?」
しょうがないなあ、とでも言いたげに、小鳥たちに髪をついばまれた。
肩に乗っている子からは頬を、指先に乗っている子からは小指を。
ちっとも痛くないはずなのに、私の胸の中がちくんと痛む。
思えば本当に誰にも何も言わずに立ち去った。今さらどうしようもない、自分で選んだ事だ。
それでも、その事を思うとひどく苦しかった。
「ごめんなさい」
そっと掠れる声で呟く。謝罪の言葉はあまりに小さく、またたく間にかき消えた。
目蓋を伏せる。
もう二度と勝手に出ていったりしたら嫌よ! 絶対だからね、カルヴィナ?
……ええ。ごめんなさい、ジルナ様。リディアンナ様。
勝手に出歩くなと言っただろう?
……ごめんなさい、地主様。
彼の責めるような、それでいて、すがるような瞳に私はどう応えるべきだったのだろう。
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誰もくれない答えを探して歩く。もちろん答えなんてないと知っている。
何て愚かなんだろう。それでも思考の中をさ迷わずにはいられなかった。
だんだんと朝もやも晴れて行く。それに伴って視界もはっきりしてきた。
そんな中、先ゆく一羽に髪を一すじ、ついと引かれた。
「なあに? どうかした?」
ツイ、ツイと引っ張られ、その先に視線を向ける。
遠目にも人影と、人ではないが見覚えのある影が見えた。
その光景に目を疑いながらも、出来る限り急ぐ。
「シオン様! 一角の君!」
にらみ合い、膠着状態の二名に叫び声を上げていた。
「エイメ様」
『おお、エイメ! 久しいな!』
シオン様は剣を構えたまま、ほんの一瞬だけ私を見た。とてもモノ言いたげな眼差しだ。
邪魔だと言いたいのだろう。わかっている。
だがそれどころではない。一角の君は凶暴なのだ。
「シオン様、どうか剣を納め下さいませ! 彼の君に乱暴はおよしください!」
頭を低くし、角をまっすぐにシオン様へと狙い定める一角の君の首筋に飛びついた。
しっかりと抱き込み、飛び出さないようにと抱えた。
その様子に驚いたシオン様が剣を下ろした。
「エイメ様! 危険です」
「危険なのはシオン様の方です!」
負けじと言い返す。私の必死さが伝わったのか、少しだけ緊張が緩んだ。
「一角の君は敵意を向けるものには容赦をしません!」
「しかし、そいつは神殿の結界を突破してきたのです」
「それは申し訳ありませんでした。一角の君は私に会いに来てくれたのでしょう。そうよね?」