大地主と大魔女の娘
勝利した者が巫女王様とその候補嬢に礼を取る。打ち負かされた者も、どうにか同じく。
埃っぽい風に目を細めてその様を眺めた。
勝利をおさめた者が、次の勝負へと進む権利を得たと神官長から宣言されている。
負けた者は巫女王様から直々に労いの言葉を掛けられて、勝負は一区切り付いていた。
だが勝った者も負けた者も、視線を向ける先は同じくひとつ。
熱心に視線を注ぐその先に、儚い少女の姿がある。
儚く美しく、その何者にも犯しがたい雰囲気に皆が競って跪く。我先にと。
その足元にひれ伏して、彼女の関心を乞うのだ。
戦う前から男共は気がついている。
この儚い存在に誰もが敵わない、と。
真の勝利者の頂点に立つのは、この娘であると。
そうだ。そんな事は解りきっている。
これはそれを知らしめるための催しでもある。
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思わず強く拳を握り締めたが、幼女は何も言わなかった。
「ああ、レオナル様! お探ししましたよ」
呼び掛けられ、そちらに注意を向けた。
振り返ると、息を切らした少年神官が書類を片手に立っている。
「思った以上に進行が早くて。もうじき出番になりますので、控え室で待機願います」
「ああ、わかった。今すぐ戻るから、この子を……。」
頼む、という言葉は続かなかった。
見やった傍らにその姿が無かったからだ。
いない? いつの間に?
息を呑む。
辺りを見渡してみても、小さな姿はどこにも見えなかった。
「レオナル様?」
「いや、何でもない。すぐに戻ろう」
しびれを切らしたような声に我にかえる。
「お願いします!」
「ああ」
少年の後に続く。歩きながら、夢でも見ていたのかと頭を振った。
手のひらにはまだ、あの小さくも温かかった感触がありありと残っている。
思わず目の前に拳を持ち上げてみた。
そっと指をゆるめるとそこには、オークの木の実がひとつ転がり出てきた。