大地主と大魔女の娘


勝利した者が巫女王様とその候補嬢に礼を取る。打ち負かされた者も、どうにか同じく。

 埃っぽい風に目を細めてその様を眺めた。

 勝利をおさめた者が、次の勝負へと進む権利を得たと神官長から宣言されている。

 負けた者は巫女王様から直々に労いの言葉を掛けられて、勝負は一区切り付いていた。


 だが勝った者も負けた者も、視線を向ける先は同じくひとつ。


 熱心に視線を注ぐその先に、儚い少女の姿がある。


 儚く美しく、その何者にも犯しがたい雰囲気に皆が競って跪く。我先にと。

 その足元にひれ伏して、彼女の関心を乞うのだ。


 戦う前から男共は気がついている。


 この儚い存在に誰もが敵わない、と。

 真の勝利者の頂点に立つのは、この娘であると。


 そうだ。そんな事は解りきっている。

 これはそれを知らしめるための催しでもある。


 ・。・:*:・。・:*:・。・:*:・。:・。・:*:・。・


 思わず強く拳を握り締めたが、幼女は何も言わなかった。

「ああ、レオナル様! お探ししましたよ」

 呼び掛けられ、そちらに注意を向けた。

 振り返ると、息を切らした少年神官が書類を片手に立っている。 


「思った以上に進行が早くて。もうじき出番になりますので、控え室で待機願います」

「ああ、わかった。今すぐ戻るから、この子を……。」


 頼む、という言葉は続かなかった。

 見やった傍らにその姿が無かったからだ。

 いない? いつの間に?

 息を呑む。


 辺りを見渡してみても、小さな姿はどこにも見えなかった。


「レオナル様?」

「いや、何でもない。すぐに戻ろう」


 しびれを切らしたような声に我にかえる。


「お願いします!」

「ああ」


 少年の後に続く。歩きながら、夢でも見ていたのかと頭を振った。

 手のひらにはまだ、あの小さくも温かかった感触がありありと残っている。


 思わず目の前に拳を持ち上げてみた。


 そっと指をゆるめるとそこには、オークの木の実がひとつ転がり出てきた。









< 439 / 499 >

この作品をシェア

pagetop