大地主と大魔女の娘
「お、お見事でした」
エイメ様からの労いの言葉は動揺のせいか震えていた。そこには賞賛も憧憬も含まれていない。
伝わってくるのは恐怖だった。
無理もない。戦いというものの認識から程遠いお方だ。
それを嫌でも引きずり下ろすようなマネをしでかすのが、この剣術大会だ。
俺たちの戦いぶりを見て、彼女は男という生き物が、いかに力任せかと思い知る事だろう。
だがそんな力を使うのは、あなた様の為だけなのだという事にも気がつくだろうか。
そうであってくれと祈る。
基本、俺は女の前ではいかな形であれ、緊急でなければ暴力は振るわないと決めている。
女という身では成し得ないことを、やすやすとやってしまう男という肉体に、女は恐怖するからだ。
彼女らがどんなに頭では理解してくれようとしていても、本能で察知してしまう歴然とした力の差に、怯えさせてしまうと分かっているからだ。
彼女らは着飾ったり、笑い合ったり、子供や草花を世話することに夢中であってくれたらそれでいい。
当たり前のように、穏やかに、争い事から一番に、遠いところに居て欲しい。
それこそが彼女らを安心させ、我らが帰る憩いの場となるはずだから。
そうだ。心からくつろぐ彼女のもとで憩うのは、俺だけで良い。
「必ずや勝ち進んでみせます」
俺の決意を込めた宣言に、少女はどうにか頷いて見せてくれた。
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熱気をはらんだ風を受け止める。
それでいて、火照ったこの頬を冷やす風。
いつだって風に導かれている気がするようになったのは、いつからだっただろうか。
早朝から始まった大会も、決勝戦を迎えている。日もずい分と高く上りきった。
奇妙に静まり返った会場の四方から、観客の期待と不安の入り交じった視線を受け止める。
「これより決勝戦を始める! 両者、礼を!」
先ずは巫女王様と候補の少女に。次いで観客に。最後に――向かい合う敵に。
「始め!!」
じいさんの合図と共に剣を構える。対戦相手も同じく。
見覚えある構えとは違う。そこまでは予想通りだった。
いつも俺に見せていた太刀筋では、手の内を明かしたも同然だからだ。
剣を両手で持ち、天に向けた構え。
表情は剣の向こうにある。そんな奴の口角が上がったように見えた。
「術者シオン・シャグランスが命じる。来れ、我が獣!」
風が巻き起こり、砂塵が舞い上がった。ほんの一つ瞬きを許してしまう。
そして次の瞬間には見知った白い獣――デュリナーダが、シオンの傍らに控えていた。