大地主と大魔女の娘
「シオン」
「手を組みました」
簡潔な答えが返ってきた。なるほど、分かりやすい。
「貴方は強い。優れた剣の使い手だ。だが、俺とて術者の端くれであると言うことを強調してみるまでです」
『我は参加資格が無かった。納得がいかなかった。だから、しぶしぶコヤツの提案に乗ってみた!』
デュリナーダが前足を蹴るせいで、辺りに砂埃が舞い上がる。
闘志もあってだろうが、そこには苛立ちもあってのようだと察する。
表向きは、シオンが聖句で縛った獣を使役しているように映るだろう。
だが実際は、獣は二度とシオンの聖句には屈服しないはずだ。
もっと魅力的なものに支配され、救われたからだ。
それでいて、わざわざシオンの提案に乗ったという事は、よほど俺の事が許せないのだろう。
シオンもだ。もう使役する事の出来ない獣に話しを持ちかけるとは!
自尊心の高い奴にしては、相当思い切ったものだと感心すらしてしまう。
それほどまでに、勝ち進みたいという事なのだろう。
例えどんなに卑劣な手を使っても、手にしたいと望むもの。
無言で構える。ただ見据えるのは二名の、闘志の露な瞳のみだ。
俺は負ける訳にはいかない。恐れはない。あるのは決意のみ。
俺は勝つ。
――背にエイメ様の眼差しを感じた。
風が強く吹き抜ける。
飛びかかってきたデュリナーダに体当たりを食らわせる。剣の柄を使って、腹に一撃も加えた。
間を置かず背後から振りおろされたシオンの刃を、すんでの所で受け止める。
身をよじり、すかさず飛びかかってきた獣を足で払い、シオンの剣も力で押し返す。
大きく飛び、双方から距離を取った。
シオンと獣は同時に飛びかかり、俺のスキをつこうと躍起になっているようだ。
出方をうかがう。
肩で大きく息をしながら、シオンを見た。明らかに奴の呼吸の方がまだ、安定している。
大きく息を吸い込んでから吐いた。
「……何故、貴方はこの後に及んで獣に剣を向けようとしないのです?」
『そうだ! 何故だ! 見くびるか、人間』
「……。」
シオンと獣は疑問を叫んだが、俺は黙ったままでいた。答える気はない。
ただ間合いを測ることのみに集中する。
「まさか、剣を持たない相手だからとでも?」
「……。」
それもあるが違う。双方の怒気が高まったのを感じながら、無言を貫く。
『デュリナーダは剣が持てなくとも、爪も牙もある! 思い知れ!』