大地主と大魔女の娘
一角の君はデュリナーダを叱責してから、レオナル様に向き合った。
何事かを話しているようだったが、ごくごくひそめた調子のようで上手く聞き取れない。
「あれあれ~? また変わったのが出てきたね」
「まあ! 噂に名高い森の奥の幻獣ね。確かエイメを訪ねてきたとか」
「……え? ええ、まあ。はい」
一角の君は『加勢してやる。ありがたく思え!』そう叫ぶと、デュリナーダへと向き合った。
レオナル様は無言で頷くと、一角の君と背中合わせに立った。シオン様と向き合う。
それからは早かった。
シオン様が体勢を整えるよりも早く、デュリナーダが一角の君の体当たりに突き飛ばされたのと同時に、レオナル様の剣がシオン様の剣をなぎ払っていた!
キィィィ――ン……!
剣の重みも負った傷の痛みも感じさせない、鮮やかな一撃に誰もが言葉もなくただた立ち尽くして見守った。
ドサリと乾いた音がした。シオン様だった。膝をついたのだ。
右手首を左手で押さえている。
その姿に一瞥(いちべつ)くれただけで、レオナル様は背を向けた。
こちらに向かって、まっすぐに進む。
「……勝負あった! 勝者、ザカリア・レオナル・ロウニア!」
彼の放つ何かに圧されていた空気を、神官長様が振り払ってくれた。
そこでやっと周りも動き出す。
割れんばかりの拍手と歓声の中、次に響き渡ったのは一角の君のいななきだった。
ヒヒィィィィ―――ンン!!
それを新たな戦いの合図とばかりに、一角の君はレオナル様へと狙いを定めた。
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一角の君の足は素早いだけではない。
充分に体重を乗せて、たくましい体躯ごとぶつかって行く。
しかも、その力を集結させるのは鋭い一角の切っ先なのだ。
ガキッ! ガキッ! と、一角と剣のぶつかり合う音が幾度も響いた。