大地主と大魔女の娘


「もうしわけあり、ありませんでした」

 謝りながら二杯目をついだ。

 手元が少しぶれた。

 立ったままで給仕をするから、右足にあまり体重を長く掛けていられないせいから、だと思う。

(不安定だから)

 手元が震える。

 それもまた飲み干される。

 地主様の分も淹れたのだが、彼は黙ってこちらを見下ろしたままで動かない。

 少しこぼれてしまったお茶がカップを濡らしてしまっていた。

 それを慎重に手布で拭いたが、地主様は手を伸ばされてこない。

「客人はしっかり御もてなしするのが礼儀だよ、フルル」

「……はい」

 小さな焼き菓子を小皿に取り分けて差し出した所で、がくんと右足が膝から折れた。

 大きく身体が後ろに崩れる。

 しまったと思ったがどうにも出来なかった。

 ただ目を閉じて、腰を打ち付ける瞬間に備える。

「おっと! フルルはまともに立ってもいられないんだね」

「あの、申しわけありません、ありがとうございます」

 後ろから抱き止められていた。

 慌てて謝って礼も述べた。

 早く解放されたくて、一息に言い放っていた。

 両手で客人を押しやったがビクともしない。


 むしろさり気なく、力を込められた事に言いようの無い恐れが、身体を駆け巡る。
< 45 / 499 >

この作品をシェア

pagetop