大地主と大魔女の娘


 どうかこれをお受け取り下さい」

「……っ!?」

 彼女が息をのんだ。

 手のひらに乗せて差し出したのは、艷やかなオークの実だった。先程の幼女に手渡されたらしい物だ。

 無意識に胸元にしまったそれが、一角の一撃を受け止めてくれていたそれには、傷も凹みも見当たらない。だが確かにこの命を庇ってくれた。

 なければどうなっていたか。

 恐らくこうやって立っていられたかどうかも怪しい。


「こ、これは?」

「オークの実です。おそらく森の加護を宿した特別な物と推測します」

「なぜ? なぜ、これを私に?」

「俺は貴方と、これにも命を救われたのです」

「救われた?」

「はい。先程あなた様と同様、俺を守ってくれた。一角の一撃をこれが受け止めてくれたおかげで、こうして無傷でいられるのです」

「……そうですか」

「それにあなた様は、こういったものがお好きなのではないだろうか?」

「えっ」


 彼女の瞳が大きく見開かれた。

 信じられない物を見るような目で、俺の事を探るように見つめている。

 わずかにわななく唇が動かされたが、言葉は発されなかった。


 ただ、俺の名を呼んだようには思えた。

 その呼びかけに応えるように、俺は彼女の手を包む。

 しばし惚けていた彼女の瞳の焦点が合うと、俺を見るまいと顔をそむけられてしまった。


「もう手を放してください」

「嫌だ」

「え?」

「嫌だ。離さない」


 彼女が泣き出しそうな表情を浮かべ、首を横に振って拒絶を表す。

 立ち上がり、その手首を体ごと引き寄せた。


「俺は貴方の騎士ではあるが、次代の巫女王の騎士にとは望まない」

「!?」

「どうか。どうか我が妻になっていただきたい」


 驚きに見開かれた瞳を見つめたまま、口付けた。


 押しのけようとする小さな抵抗すらも心地よかった。

 ふっくらとした唇が少し乾いていて、優しく引っ掛かった。

 こんなにも風の吹きすさぶ会場に、長く居られたせいだろうか。

 可哀想だと思う気持ちとは裏腹に、恨みがましい気持ちにも襲われる。

 何故かは説明がつかない。いい気味だと思った気持ちにも。

 潤いを求めていた。ずっと。ずっと。ずっと。もっと――もっと。

 その源泉にまでたどり着きたい。


「んん――っ!」


 乾きひび割れた唇を湿らせる。


 頑なに先を拒む唇を、無理やり力任せで進む。

 細腰を捕らえ、編み上げられた後ろ頭を捕らえる。

 髪が乱れ、指へ腕へと掛かり落ちる。


「んぅン!」

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