大地主と大魔女の娘
失われたはずの記憶
まただ。
気が付けば客間の前で佇む自分がいる。
手には剣を持っている。
身体がなまらないように鍛錬をしようと思い立ったはずなのに?
自室かは離れたここに何故、足を運んでしまうのか。
自身に薄気味悪さを覚え扉に背を向けた。だが妙に心惹かれる何かも感じる。
それが俺を立ち止まらせた。
そのまま足はやに立ち去ってしまえばいい。それで済む話だ。
それを振り切る自分もいる。
気になるのならば確かめればいいだけの事だ。
扉を開けた。
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清潔に保たれた室内は静かだった。
もちろん人の気配はない。カーテンの隙間から差し込む陽光に細かな塵が遊ぶ。
静かだ。
「……。」
ここは来客用としているはずなのだから当然だ。
だが、何故こうも物寂しさを覚えるのだろう? そこにあるはずのないぬくもりを、気配を必死で期待する自分はどうかしているのだろう。
頭を振る。
きっと花も何も無いからそう感じてしまうだけだ。
そう結論付けても立ち去れずにいる。未練がましく微かな気配を探り当てようとする。
ふと視線を落とすと、テーブルに置かれた封書に気が付いた。
こんな所に?
不信に思いながら手に取れば、ロウニア家宛て、すなわち俺あてだった。
『ロウニア家 御当主様』
女性用のドレス 十着・37万ロート。
下着の上下 二十揃い・20万ロート。
靴 五足・12万ロート。
以上でしめて69万ロートを確かに領収いたしました。
またのご利用を心よりお待ち申し上げております。
~ パニエルラ店代表・エンドレア・スタナー ~
「……。」
69万ロート?
大金だ。
俺の神殿仕えの給金の、おおよそ二ヶ月分を少々上回る額が記されている。
それにはこう署名がなされていた。
~ 確かに納品を確認した。ザカリア・レオナル・ロウニア ~
署名の日付はひと月も経っていない。
何があったのか。
ルゼに?
あの、気高い公爵令嬢への貢物の依頼か?
全く心当たりがない。
衣装棚を開け放つ。