大地主と大魔女の娘
手を引かれて神殿の回廊を進む。
金の綿毛みたいな髪の毛に、雨に濡れた葉っぱみたいに鮮やかな緑玉の瞳。
綺麗で可愛らしい女の子。
その正体に私は気がつき始めている。
でも言葉にはしない。声に出して尋ねたりなんてしない。それは野暮というものだろう。
口にしたとたん術は破れてしまうのだ。
女の子も私の様子を察しているようだった。でも何も言わない。
微笑み浮かべて見せるだけだ。
その幼い見てくれに、おおよそ似つかわしくない謎めいた笑みは慈愛に満ちている。
『さあ、着いたよ』
神殿の奥深く静まり返った回廊の突き当たりに、その扉はあった。
重厚な扉に施された紋様は大木と、そこから伸びた枝葉に絡みつく二匹の蛇だ。
この神殿の証しというそれ。並々ならぬ圧迫感があった。
ここに来るまで誰ともすれ違わなかった。
まだ日も高く、人の出入りもあるというのに。
女の子は小さな両手と額を扉に付けて、何かを呟いた。
きぃと微かな軋みを上げて扉は開く。
『さあ』
手を引かれ一歩踏み込むと、一筋の光だけが遊んでいた。
採光は最低限のようだ。
厳粛な空気が支配する空間に、気持ちが引き締まる。
コツリと自分の足音が嫌に響いた。
この広い一室の中央に椅子がひとつだけ置いてある。
その事に違和感を覚えない訳にいかなかった。
何となく視線を感じて見上げれば、壁一面に若い女性の絵が飾られている。
皆、巫女の正装姿だ。
その数は六枚。六枚の肖像画だった。
絵画の下には古語で、こう記されていた。
―― 六代目 巫女王 ロゼリット・シュスバナム
思わず頭を下げて礼を取った。
『ここは歴代の巫女王の肖像画の間よ。ねえ、もう頭を上げて。六代目をよく見て欲しいの』
『ええ』
六代目の彼女は、私と同じくらいの年頃のようだ。
長い金の髪がまばゆく、あふれんばかりの生命力を感じさせた。
そんな彼女の鮮やかな緑の眼に見つめられ、息を呑む。
どこかで見たことのあるような面差しに、思わず怯んだ。
色合いこそまるっきり違うが、これはまるで――。
『ふふ。よく似ているでしょう? エイメ、貴方に』
『……。』
私の想いを見透かしたように女の子が言った。