大地主と大魔女の娘
『改めて紹介しよう。六代目のロゼリット。現巫女王の在位の時の絵姿だ。こうして見るとフルルに似ているね。頬の線の丸み加減とか、目の大きさとか』
『その隣。五代目のアイーラ。彼女の在位は少々短かった。あまり丈夫では無かったからね』
『次。四代目のグロリア。気難し屋でね。僕も手を焼いた。そこが可愛かったともいえるけど』
『三代目のライラ。とにかく明るいコだった。いつでも笑っているような』
『二代目のミレイユ。とびきり綺麗なコだろう? でも素直で大人しいコだったよ』
『そして初代のリルディ・アン。この美貌を誇りながら中身は最強の呪術者。僕を神殿に縛り付けた張本人だ。うん、僕にとって最凶であるのに間違いは無いな』
それぞれ在位した時の絵姿のまま、スレン様の記憶に残っているであろう彼女たちに、言葉がなかった。
ただここにいる少女たちと向かい合う。
『フルル。どうかここに飾られる絵姿は君で最後としておくれ。
どうせ解放される事はないんだ。そうだとしても、もう構わない。
このまま縛られたままで僕は構わないから
これ以上新しい巫女王を……花嫁を迎えたくないんだ。
君なら、森のあのお方の血を引く君ならそれが叶う』
スレン様が傍らに跪いて、私をのぞき込んだ。
『私の、お父さんって……。森の、なに?』
『大魔女に聞いて。僕が答えられないくらいに大きな存在だよ、奇跡の子』
そう言うと私の頬を両手で挟み込んで、スレン様は笑った。
『君は何て僕に相応しいのだろう』
その笑みが余りにも弱々しくて、思わず彼に両手を伸ばしていた。
抱き寄せる。
これは――私の姿かもしれない。そう思ったらいてもたっても居られなくなったから。
愛する人たちに置いてけぼりにされて、孤独の中を永遠にさまい続ける。
それはどれほどの孤独だろう?
『僕はもうまっぴら何だよ。置いて行かれるのなんて』
そう言って顔を歪めると、スレン様は私の膝に突っ伏した。
私のスカートを掴む手が小刻みに震えている。
私はその頭を幾度も撫でさすり続けた。
何度も何度も。
この肖像画の中で微笑む少女たちの代わりに。
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それから……二日後の夕刻に巫女王様はお亡くなりになった。