大地主と大魔女の娘
『言っただろう? 他愛もないと』
『な、何故? 何? 何のことなの?』
『内緒。訊いてばかりだなあ、フルルは! まあいいけど。たまには僕の疑問に答えてよ』
『え……?』
『君は人の感情に敏いのだろう? だったら、この僕の中に渦巻く物が何なのか説明を付けてくれ』
痛いくらいに強く顎を掴まれて、額同士をこすり合わされた。
『……。』
『ねえ?』
『スレン様は』
暗がりの中、緑の瞳が私を見据えている。
『うん?』
『スレン様は寂しすぎて怒っておられる……。』
その途端、涙がひとしずく、頬を伝った。
『そう。何で君が泣くの?』
あなたが泣いているからだとは伝えられないまま腕を引かれて、部屋を後にした。
どうして私はここにいるのだろう?
どうして私の手を取るのはこの方なのだろう?
そう感じながらも疑問を口にすることも出来ない。
連れられるままに進んだ先にあったのは、聖なる間とされている所だった。
神殿に来て一番に訪れた場所だ。
忘れるはずもない。
同じようにスレン様が手をかざしただけで扉は開いた。手を引かれ進む。
足元と壁に灯された蝋燭がゆらめく。
風が……?
違和感に闇に目を凝らすと、ひときわ濃い闇が在る気がした。
スレン様も同じものを感じ取ったのだろう。
『さあ、婚礼の儀式を……。誰だ!?』
スレン様が祭壇の方を睨み、闇に向かって鋭く叫んだ。
真っ暗闇の中、何かが蠢いた気配がする。
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たっぷりと間を置いてから――闇が答えた。
『シュディマライ・ヤ・エルマ』