大地主と大魔女の娘
『それは森の神の……面』
忌々しそうに呟くスレンを仮面越しに睨みつける。
祭壇を背に奴の前に立ちはだかるべく、待っていた。
奴は必ずここに来るから、と。
『そうだ。今一度シュディマライ・ヤ・エルマとして我が半身、真白き光を迎えにきた』
お互い、一歩たりとも引く気はない。
剣の柄に手を掛けると、傍らの存在が怯えたように身を引いた。
目を引かれずにはいられない。
――美しい。
スレンに手を引かれた少女のまとう衣装は、繊細なレースが重ね合わされたもの。
髪には白い花を差し飾り、サークレットで押さえたベールが肌を透かし見せている。
忍び寄る冷気から体を守るためだろう、肩に掛けられたショールもそれらに合わされたレースのようだ。
彼女がほんの少しでも身動ぎする度に、それら全てが風をはらんで誘う。
こんな時だというのに見とれ、そして嫉妬した。
――その装いは我のためであるべきだ。
『何そのイかれた格好? 花嫁をさらいに来たとでも言うのか、森のケダモノ』
自身の白を基調にした正装を見せつけるように、スレンは胸を張り、俺を嘲笑った。
森の神の衣装なるもの。
外套は黒一色で、肩にも真っ黒い飾り羽根があしらわれている。
はたから見たら野蛮に映るのは俺の方だろう。
それでも負けじと張り合うつもりで胸を張った。
俺は森の神。シュディマライ・ヤ・エルマ。
『確かにこのままでは、ただの獣に成り果てる。だからこそ迎えに来た。我の真白き光を』
スレンは鋭く舌打ちすると同時に、彼女の体を背後へと引いた。
『真白き光』
呼び掛け、手を差し伸べた。
蝋燭の灯りが頼りなく揺れた。
スレンの背後からのぞく眼差しも揺れている。
『我の半身』
辛抱強く呼びかける。
差し伸ばした腕に応えるように、彼女は小さく指先を持ち上げた。
だがすぐに、首を横に振る。
俺の腕輪の石が、輝く。
『我が花嫁』
『ねえ、レオナル。その姿は一体誰の入れ知恵?』
見定めてやろうというのだろう。奴の目が眇められた。
先刻の打ち合わせを思い出しながら、慎重に向かい合う。