大地主と大魔女の娘


 リディアンナと紹介された客と俺とで、打ち合わせなるものを重ねていた。

 ほんのつい先ほど。夕刻に差し掛かる頃だった。

「叔父様、急いで下さい」


「リディ?」

「これから……巫女王様がお亡くなりになります」

「リディ。それは確かか?」

「はい。残念ながら」


「そうか」

 そう呟き返したのは俺ではなかった。


「おじいさま」

「神官長」

「今はただのジジイと呼べと言っただろう、若造」


 乾いた笑い声が耳に残る。

「行くぞ、若造。打ち合わせ通りにな」

「ええ、行きましょう叔父様。けして気を許しては駄目よ。わたくしたちが挑む相手はそれ相当なものよ」

「その者の正体は?」


 リディアンナも神官長も顔を見合わせてから、ひっそりと笑っただけだった。

「うかがいしれません」



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 静かな気配しかしない。

 対峙する奴から、何の熱意も伝わってこない。

 これから乙女を花嫁と迎えようとしているのは解る。

 しかしその相手にと何故、次代の巫女の王となるべく少女を選ぶのだ?

 それでいて、そこに浮かぶ暗い瞳は何とする?

 喜びを感じていないのは明らかだ。

 巫女王が亡くなり、そして新しい巫女王を迎えようとしているのに?

 理解できなかった。

 せいぜい、どうしようもない諦めと、儀式に対する執着しか見いだせない。

 その事に違和感を覚える。

 首を横に小さく振った。


『オマエは、何者、だ……?』


 思わず漏らした言葉が、今まで無視してきた疑問へのきっかけとなった。


 スレンなどという者など、この神殿に居たことがあったか?

 答えは否だ。

『僕は僕だね』


 そう言うと、おかしそうに笑った。前髪をかきあげて片目を覆う。

 にやりと笑った口元だけが見える。

 仮面越しにとらえる奴の存在は、ひどく揺らめいて感じる。


 人の形こそしてはいるが、中身のない空虚な木偶。

 むしろ、スレンという男の後ろから立ちのぼる何かに警戒する。

 闇の中、気配が蠢いてこちらを窺っている。


 『オマエは、』


 ―― 人では無いな?

 言いかけた途端、息苦しくなった。

 まるで見えない何かに、喉元を首られているかのようだった。

 思わず首元をかきむしる。


『そこまでだよ、レオナル。

 森の神の威光を借りているとはいえ、

 たかだか人の子風情が僕の正体を口にしてはいけない。

 命の保証は出来ないから、黙っていて』


『ぐっ……。』

 奴から目をそらさずに、片手だけを小さく上げて見せた。

 それを降参の合図と受け止めたのだろう。苦しさが幾分やわらいだ。


『わかってくれて嬉しいよ』




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