大地主と大魔女の娘
ガシャン!!
ガシャン、ガシャン!!
怒りに任せて、スレンは祭壇の器を床へと叩きつけ出した。
次々と叩きつけ、最後に祭壇自体を蹴り倒す。
『違う。僕のリルはとっくにお墓の中だ。その時だって僕は弔いの式に参列したんだから、間違いないよ』
『スイレイン、』
『その名で呼ぶな! 呼んでもいいのは僕の花嫁だけだ!』
大きく肩を震わせてから、スレンはリディアンナへと向かい合う。
壊れた破片が踏みつけられて、ガシャガシャと耳障りな音を立てた。
『君はリディアンナだ。人はやり直すことが出来る生き物だ。
その転生の輪を外れない限り、幾度も機会が与えられている。
神に祝福された生き物たちよ』
『あなたもよ、スレン』
『何だって?』
『あなたもやり直すことが出来る』
静かにリディアンナは告げた。
『わたくしはやり直すためにここに来たの』
『やり直す? やり直すだって? 一体、何を言っているんだい!』
『スレン様。わたくし、十四歳になったわ。昨日まで十三歳だったのに』
『……。』
『お祝いはしてくださらないの?』
『そうやってまた僕を追い越して、置いていくんだ。祝える訳がない』
『わたくしは時を味方にして貴方に追いつき……追い越すでしょう。
でも貴方の側にいる事を望むから、
貴方をわたくしのかけた術から解放して差し上げたいから、生まれてきたの』
リディアンナは影の中を恐れずに突き進み、手を差し出した。
『さあ、もう一度、あの時の続きを』
『嫌だ! 君もまた僕を置いて行ってしまうんだ』
『いいえ。置いてなど行きません。もしそうなったとしても、こ度は必ずや貴方を解放してみせます』
スレンは往生際悪く、首を横に振り続けて抵抗していた。
口ではそう言ってこそいるが、どうだろう。
何よりの証拠に奴の本体らしい枝の影が、リディアンナへといっせいに伸びてきている。
本当の願いが目の前にあるというに、奴はためらっているのだ。
そうもどかしく思いながら見守っていると、ふいに声を掛けられた。