大地主と大魔女の娘
厨房人と召使い
厨房に現れた少女に誰もが注目した。
ここの所ずっと噂の中心人物なのだから、誰でも驚くというものだろう。
今先程までも、今日は何をこさえ、召し上がっていただこうかという話で厨房はわいていた。
女たちは嬉しさに驚いた声を上げ、男どもは気恥ずかしさからか、しかめっ面になった。
「あの、お忙しいところ申しわけありません」
意を決したような表情ではっきりそう述べると、頭を下げる。
何故か私が結い上げたはずの髪が、崩れ掛けているのが気にかかった。
それよりも顔を上げた彼女の、縋るような瞳の方が訴えてくるものがある。
(うん。いるよね、勇気。知らない人ばかりの中に来て、声を掛けるのって)
少女は杖をついて立っていた。
その様子があまりに健気で胸が締め付けられた。
「いいえ、いいえ、構いませんよ、お嬢さま。どうかされましたか?」
「あの、地主様のお客様にお茶とお菓子の用意をするように言いつかりました」
「お客様?」
今日、来客の予定があったとは聞いていない。
と、言う事は……。
皆の表情が「ああ、あの方か。またふらりと勝手にやってきて地主様にケンカでもふっかけにきたのだろう」と物語る。
「失礼ですがその、地主様に命じられたのですか?」
「いいえ。そのお客様という、背の高い金の髪の方にです」
「……。」
一同、顔を見合わせた。