大地主と大魔女の娘


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 闇の中、わずかな灯りを頼りに進んだ。

 ほのかな灯火が室内を照らす。

 蝋燭の炎が小さく揺らめくのと一緒に、二人分の影も揺れる。

 その様が、見知ったはずの部屋の表情を変えて見せている気がしてならない。


 手探りで探り当てた鍵も閉めた。

 私の震える指先を、レオナル様が包み込むように支えて、手伝ってくれた。

 内側から掛けた鍵は、私たち以外が開けることは出来やしない。


 落ち着かない気持ちのまま寝台へと腰下ろすと、彼も一緒に腰下ろした。

 直ぐさま腰を引き寄せられ、そっと前髪に触れられたかと思うと、髪飾りで留めたベールを外された。

 編み上げられた髪の一部も、彼の手が解して行く。


 ――目を閉じる。


 腰帯が解かれ、衣の前合わせもはだけられる。

 帯を取り去られてしまえば、この衣装はただの一枚の布でしかなかった。

 肌を掠める冷たい夜の空気に、彼の息使いも混じる。

 気が付けば、自ずと両手を伸ばしていた。


 シュディマライ・ヤ・エルマの仮面に指を這わせると、レオナル様は近付いてくれた。

 そのまま耳元を伝い、後ろ頭を引き寄せるようにしてから、仮面の紐を引く。

 嫌に呆気なく仮面は外れてしまった。

 あのお祭りの日が嘘みたいだ。

 改めて不思議に思っていると、仮面を取り上げられてしまった。


「あ……?」

 鋭く見下ろされている。

 その眼差しがあまりにも強くて、本当にもうシュディマライ・ヤ・エルマで無くなったのかと疑った程だ。


 射抜かれた瞳が「俺を見ろ」と訴えている。

 俺を見ろ。俺を見ろ。俺だけを見ていてくれ。

 そんな眼差しが私だけを見つめてくれている。

 この眼差しには覚えがある。

 あの日。

 剣術大会で彼が優勝して、任命式に臨んだ時と同じだ。

 ぞくりと背筋が震え上がった。

 この眼差しにだったら捕らえられてもいい。

 そんな風に思った自分を何様かと思った。

 私も同じように彼を見つめていられるだろうか。

 熱に浮かされたようになった眼差しで、どこまで語れるか自信が無かったが、とにかく見つめ続ける。


 見つめるだけでは足りなくなって、腕を伸ばしてレオナル様に触れた。


 彼も同じように私に触れてくれた。


 お互いの心臓の上に手を置く。


 同じ。






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