大地主と大魔女の娘


 ピィッチチチチチ――――!

 シュリトゥーゼル達が私に朝だと告げてくれる。

 どれくらい眠っていたのだろう?

 目を閉じているのに、陽の光を眩しく感じる。

 起きなくちゃ、と思うのだが、まだ目蓋が重くて持ち上がらない。

 どうしたのだろう、私の身体は?


 目蓋どころか、指先にすら力が入らない。

 重くて怠いだけじゃない。あちこち痛い。

 痛みはそこかしこに散らばっていて、特にどこが痛いとは言えない。

 言えないけれど……主張されてしまうような。

 痛みというよりも疼きのような、熱帯びた感覚を拾い上げる。

 何だろう。

 身体の奥深い場所が一番……?


「ん……?」

「起きたのか?」


 すぐ間近で聞こえた声に、意識は一気に覚醒した。

 昨晩の記憶も一緒に飛び起きる。


 うあ、と思わず悲鳴が上がってしまった。みるみる顔に熱が集中する。

 朝日に照らされたせいばかりではない。

 とにかく恥ずかしくてたまらない。

 熱を分けあった身体は、忍び寄る冷気の中でも失われてはいなかった。

 むしろ、くすぶり続けたままの気がする。

 彼の腕の中で目を覚ました自分に驚いて身動ぎ、逃れようとした身体を捕らえられた。


 耳たぶを食まれ、囁かれる。


「逃がさない」


「あ、レ……ォナ……っま」


 発した声がひどく掠れていて、ますます赤面してしまう。

 待って、もう許して、レオナル様。そう伝えたいのに、声すら出すのが恥ずかしい何て。


「俺のものだ。俺の……花嫁だ。カルヴィナ」

「……。」

「カルヴィナ?」


 急に大人しくなった私に、彼は思い当たったのか黙り込んだ。


「カ……ル……。」


 言いかけて考え込む。

 レオナル様を見つめながら、私は答えを待った。


 それから軽く咳払いしてから、どうにか掠れる声を搾り出した。


『夜露は……。朝日と共に消え去るのが定め。

 そうして夜露は生まれ変わるのです』


 そう。

 夜のうちに迷いや不安という名の夜露は枯れ果てた。

 残るわずかな雫も、やがて朝日に晒されるのが運命だ。

 夜露は朝日によって生まれ変わる事が出来るのだ。


 静かにレオナル様の瞳を見つめる。

 濃い青さをたたえた瞳に、なんとも言えない光が映り込む。

 それも私を照らしてくれる。


『朝 露(レユーナ)!』


 彼は迷いなく、強く言い切ってくれた。

 私はひとつ頷いた。

 心の底からわきあがる喜びのまま、微笑みかける。


『夜露はあなた様の腕の中で生まれ変わりました。

 これからもどうぞ末永くお願い致します……私の……だんな様』


『朝 露(レユーナ)』


 ――その時の彼の見せた誇らしげな笑顔は、私の一生の宝物だ。




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