大地主と大魔女の娘


 ああ、そうか。


 終わったのか。


 ザカリア・レオナル・ロウニアの人生は、つい先ほど終りを迎えたのだ。


 手を引かれるままに巨樹へと進む。

 その後ろから、人影が姿を現した。

 手にはシュディマライ・ヤ・エルマの仮面を手にしている。


『やあ、来たね』

『スレン』

『今日で地主業はひとまず終業だね。お疲れさま』

『そのようだな』

『そうだよ。今日からは森のカミサマ業につくといい。まあ、のんびりやるがいいさ。何せ時間はたっぷりある』


 そう言って笑いながら仮面を手渡してきた。

 手にした獣を象った面を付けて見せると、レユーナもスレンも満足そうに頷いた。


『よく来たね。歓迎するよ。向こうに森の大主と、大魔女も待っているよ。改めて紹介するからおいでよ』


 俺の感じる喜びのままに、オークの実が降ってくる。


 大魔女の娘が嬉しそうに笑い声を上げる。

 はしゃいで、オークの恵みに打たれるのだと、くるくる回っている。

 シュリトゥーゼル達も舞い降りて、一緒になってさえずり出す。


 木漏れ日の下、白い花嫁衣装がひるがえる。


 一緒に向かい合い、手と手を取り合って笑った。


『行きましょう、みんな待ってくれています』


 愛しい少女に促されるまま、光の方へと進む。


 つないだ手のひらに、オークの実を感じた。


 風が吹き抜けて行く。


 あまりの眩しさに目を細める。


 風が優しく背を押してくれた。


 ――光に向かって一歩を踏み出す。




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