大地主と大魔女の娘

  赤ん坊はよく眠っている――。

「まあ、可愛らしい!」

 レユーナは感嘆の声を上げた。

「そうでしょ! さすがフルルは素直でいいね。たんと見てもいいよ」

 いつも通りに図々しい奴は、さっさと椅子に腰を落ち着ける。

 よく見れば首から肩に掛ける紐付きの布に、赤ん坊をくるんでいる。

 用意が良すぎる。

「あなた。ね、ご覧になって?」

「……。」

 妻が顔を輝かせながら、俺の腕を引く。

「そうだよぉ。せっかくリディがジルエールの首がすわったから、叔父様とフルルに会わせてあげて欲しいって言ってたのに」

「リディ……。」

「そうだよ」

 あの姉の産んだ赤ん坊が、同じく母親になったのだ。

 彼女が巫女王の座についてから六年。

 神殿内での立場も確立しつつある姪っ子に、かつてのように気軽に話しかける事はそうそう無い。

 そんな若き巫女王はひっそりと母親になったのだ。

 そこはスレンや重役達の計らいで、数限りないめくらましの術を用いて人知れず。

 彼女は不可能とされていた奇跡を起こした。

 この人では無きものとの間に、不可能とされていた奇跡を。

 スレンは笑っている。

 今までに見せたことのないような、誇らしげな落ち着きさえ感じる。


 
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