大地主と大魔女の娘
ざばぁ! っと湖面がざわめき、水しぶきが上がった。
真っ白い毛並みの馬が、水面に立っていた。
ただの馬ではない。
その頭にはねじれた角がある。
――魔物だ。
本当にいたんだ。
少し震えてしまったが、わくわくもしてしまう。
弟と顔を見合わせた。
「すっっごいや! 本当に魔物がいた! 酒を飲みに出てきた!!」
★ ★ ★
魔物は目をギラギラさせて、俺達を睨んだ。
弟を背にかばう。
魔物は水面を走り、そのまま突進してきた。
だが魔物は樽まで来るとピタリと止まる。
『おおおおおおおおおぅ……!』
「な、何だよ、魔物? 腹でも痛いのか?」
『黙れ・黙れ・黙れ!』
「弟が失礼した、魔物殿」
『っくっ……。おまえら、反則だろう、その見てくれは!』
「見てくれ?」
『何故、男児とはいえ、そうもエイメに生き写しなのだ!
そのくせ、中身はアヤツと同じでは無いか!
こんな、こんな悔しさはあるまい。どこに怒りをぶつけていいのかわからん』
エイメ? アヤツ? 同じなかみ?
ふたたび弟と二人、顔を見合わせる。
確かに父上よりも母上に似ている、とは良く言われるが。
自分たちは母のような少女めいた所はどこにも見当たらない、と思っている。
――ガコォ!!
魔物は唐突に、一角で樽のふたを一突きした。
勢いが良すぎてしぶきがとんだ。
酒臭い。
そのまま魔物は樽に顔をつっこむ。
ゴッゴッ、ゴッゴッ……。
「おい、魔物? そんなに一気に飲んで腹壊しても知らないぞ?」
『ぃやかましい! 飲まずにやっていられるか!』
ぷっはぁー! と息継ぎと共に吐き出された。
酒臭い。
『座れ。』
「え?」
「え?」
『いいから座れ!』
そのまま「酒盛り」とやらに参加させられた。