大地主と大魔女の娘


 少しばかり、足の運びがうまく行かない時もあるようだ。

 その度に体勢を立て直しながら進んでいるようだ。

 彼女が廊下を曲がって姿が見えなくなるまで、そっと見送り続けた。


 振り返ると、何食わぬ顔で野菜の下ごしらえをしていた男と目が合った。

 すぐさまふり払うように視線を引き剥がされたが、私は彼の様子をじっと見つめた。

 いつも私たちが「お嬢さまに何をお出ししようか?」と相談していると、

「魔女には適当にそこらの野草で充分じゃないのか?」等と憎まれ口を叩いて、

 無視されている料理人(おとこ)だ。

 彼女が自分の作った料理を、受け付けられないでいる事も知っている。

 きっと色々と、気になって仕方が無いに違いない。



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 しばらく皆で他愛ない話をして、お茶を飲んだ。

 誰も彼女の事を口に出さないでいるが、気になって仕方が無いのだと思う。

 何となく気もそぞろで、そわそわと落ち着かない。


「ああ、いけない! お嬢様のワゴンに代えのお湯を準備するのを忘れていたわ!」


 いそいそと立ち上がって、ティーポットにお湯をたっぷりと準備した。

 もちろん、方便である。

「まあ、たいへん。早くお届けしなくっちゃね」

「頼んだわよ」

 そんなわざとらしくもありがたい言葉を背に受けて、ワゴンを押し進める。

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