大地主と大魔女の娘


 いい匂いのする焼き立てのパンをひとつ屋台で買って、半分だけ食べた。

 残りは包んでかばんにしまって歩き出す。

 胸がいっぱいだと、お腹もあんまり減らなくて経済的かもしれない。

 これからどうやって生きていこうかなぁ、とだけ考えながらあてどもなく歩いた。

 途中、にぎやかな歓声が後ろから迫ってくるなぁとは思ったが、それ以上追及はしなかった。

 ―――気が付いたら転んでいた。

 はやし立てる笑い声は幼く、真に悪意が込められているものではなかった。

 だから気にもならない。


 杖を突いて歩く女が物珍しいのだろう。

 街に出ればままあることだ。

 別段怒りもせず、泣きもしない私を気味悪く思ったのか「行こうぜ!」という声が上がった。

 身を起こすと目の前に杖を差し出されていた。

「ん!」

 見上げた先にあったのは、唇をひん曲げて思いっきり不機嫌顔だった。

 年の頃は十二、三歳といった所だろうか?

 いかにもやんちゃそうな、よく日に焼けた少年だった。

 赤味の強い茶髪に、輝きの強い琥珀の瞳が眩しい。

 いつかもどこかでこんな事があった気がするなぁ、とぼんやりしながら受け取った。

「ありがとう」

 礼を言うのも変な気がしたが、言わないのもどうかと思ったのでそう口にしていた。

 ますます少年の表情が険しいものになった。

「バカじゃないの! あんた!」

「こら――!! 悪ガキどもっ、何をご婦人に悪さしてる!!」

 商店街のおじさんが大声で怒鳴ってくれた。


 少年達は散り散りに一目散で駆けて行ってしまった。
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