大地主と大魔女の娘


 腕を掴まれた。

 驚きのあまり、振りほどけなかった。

 そのまま強引に引き摺られるようにして、路地裏に入った。

 ごみごみした薄暗い路地裏は、家が隙間無く立っていた。

 それなのにまるで人の気配がしなかった。

 いや、あるにはあるのだが面には現れず、深く潜んでいるような気がした。

 一番、奥の奥、突き当りのドアをガンガンと、男は蹴った。

 しばらく、何の応えもなかった。

 男は黙って立っていた。

 すると、音も立てずに扉が開いた。

 そこからぬっと腕が伸びてきたから、声にならない悲鳴を上げた。

「!?」

 しかも男は、私をその腕の前へと押しやったのだ。

 今度はその扉の向こうの腕に手首を掴まれる。

 掴む手の感触は柔らかく肉付きの良い、女の人のものだったので少し気が抜けた。


「何だい! 骨と皮ばかりじゃないか! しかも杖をついて歩くのかい? そん
な足を引き摺っている子に、うちの客相手が務まるもんか。それに足の悪い子はあそこの具合も悪い子が多いんだ。使い物にならないに決まっている。他をあたりな!」

「まあまあ。黒髪黒目は珍しいから、変わった者が好みの客にはいいんじゃないかと思ったんだけどな?」

「冗談じゃない。これはカラスと忌み嫌われる色だよ。縁起でもない子を寄こすんじゃないよ」

 手だけを覗かせていたおかみさんは、そう言い捨てるとバタンと扉を閉めてしまった。

「……。そうですよ。私はカラスと忌み嫌われていますから、関わらない方がいいですよ」

 そう声を掛けると、彼は押し黙った。

 がしがしと自身の後ろ頭を掻き毟ってから、首を横に傾けると言った。


「あんた、おかしいってよく言われるだろ?」


 ―――意味が良くわからない。
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