大地主と大魔女の娘
馴染みのない潮風の香りに誘われて行くと、港にぶち当たった。
海だ。
潮風が心地よく頬を撫で、ショールの裾も攫われて踊る。
ここから先は船でなければどこにも行けない。
海を渡る。
渡った先には何があるのだろう。
少し胸が躍った。
そうだ!ここを出て、遠い、遠い場所で生きて行こう。
誰も私を知らない場所で一から出直そう。
それがとてもいい考えに思えて、希望が持てた。
ふらふらと停船している船着場へと、誘われるように近付いていった。
こんな時、おぼつかない足取りが恨めしい。
気持ちだけが逸る。
ふらつくのは身体が前のめりになって、足が付いて行けないからだ。
足取りはおぼつかないが、気分は軽やかで本当は駆け出したいくらいだった。
「あのう。この船に乗りたいのですが」
「ああ。出発は一刻ほど後だよ。その前に手続きが必要だから、あそこの商工会議所の建物に行って乗船券を発見してもらってくれ。船賃は先払いだからね」
「あの、おいくらかかるのでしょうか?」
「5000・ロートだよ」