大地主と大魔女の娘
大地主と町の人々
館全体が忙しない雰囲気に包まれている。
仕え人たちが忙しなく動き回るのはいつもの風景だ。
ただその者達の心が騒がしいのだと思う。
それが館全体に流れる空気までをも、落ち着きの無いものにするのだ。
例えば行き交う靴音や、扉を開け閉めする音に荒々しさを感じる。
日常から耳にしているだけに、違いが嫌というほど伝わってくる。
(何か、あったな)
動揺するような、何かが。
急ぎ身支度を整えていると、リヒャエルがいつになく慌ただしい様子で扉を開け放ってきた。
こちらの返事も待たずになので、よほどの緊急事態だと覚悟した。
「失礼致します!」
「何事だ?」
手袋をはめながら問い掛けた。
「エイメリィ様がお部屋にいらっしゃいません」
「何?」
「館をくまなく探させてはいるのですが、どこにもお姿が見えません。そして書置きがありました」
差し出された書置きを奪う。
『足りない税金は、働いて必ず納めます。』
少し空けて書かれたその一文は、俺に当てたものなのだろう。
娘のためらいがそのまま伝わってくるかのような、か細い文字だった。