大地主と大魔女の娘
「こら―――っ! 何、ご婦人に乱暴を働いているんだ! そこのおっさん!」
ガン! ガン! ガン! と手にした鍋底に、棒を打ち鳴らしながら、少年が怒鳴った。
『フォリウムん所の悪ガキだ』
『飴屋のルボルグが来たよ』
赤味の強い茶髪の少年は、そう呼ばれているらしい。
野次馬たちが何かしら期待のこもった眼差しを向けている。
控えめながら野次と賞賛が入り混じる。
要はこのガジルールのガキ大将といった存在なのだろう。
年は甥っ子とそう変わらないだろうか、と考えながら眺めた。
「……。」
「アンタだよ、おっさん!」
少年はそう言い放つと、棒をこちらに突きつけた。
娘も驚いたため、抵抗を忘れたらしい。
そして小さく「さっきの」と呟いて、少年を見上げる。
「乱暴などしていない」
「嘘つくな! だったら何でその子は泣いているんだよ。嫌がっているじゃないか、オマエの事!」
「だから今、謝罪をしていたところだが」
「いいから! 放してやれよ。おっさんの馬鹿力で、その子の手首が折れそうだ!」