大地主と大魔女の娘
少年が娘の腕を掴んだ。
その途端、娘の身体がびくりと跳ね上がった。
「あ……っ、いや」
悲鳴のような拒絶の声に、少年の表情が歪む。
「何だよっ、助けてやろうとしているのに! こっちに来いよ!」
少年が泣きそうな顔で怒鳴った。
娘は大きな声に怯えて、身を小さく丸めてショールを深く被り直してしまった。
何とも嫌な気分に襲われる。
見ていられない。
少年から庇うように間に割って入り、慎重に娘の顔を覗き込んだ。
「もう泣くな、カルヴィナ。どこか痛むか?」
名づけて以来初めて、彼女の名を呼んだ。
娘は驚いた様子で面を上げた。
やはりその夜闇を映す瞳からは涙が溢れている。
何がフルルなものか。
やはりこの娘はカルヴィナ(よつゆ)に違いあるまい。