大地主と大魔女の娘
ぱん、ぱんっと二度、手を打ち鳴らす音の方に皆が注目する。
人ごみを掻き分けるように、突き進んできたのは一人の女性だった。
きっちりと結い上げられた髪は、少年と全く同じ色合いだ。
ただ、瞳の色は違う。
ここからではよく判別できないが、深い紫のようだった。珍しい。
「はいはいはい! 皆、散った散った! あんまり騒いでると自警団が駆けつけるよ! 仕事に戻りな」
やたらに大きく響く声に野次馬たちは顔を見合わせながら、名残惜しそうに振り返りながらも散って行った。
「ルボルグ、それくらいにしておきなよ?」
「母ちゃん」
「そ。後は母ちゃん達に任せな」
女性はそう言うと、少年の頭に手を置いた。
その後ろに立つ、同じような年のおかみが二人頷いて見せる。
「自警団の兄ちゃん達は呼ばなくてもいいのか!?」
「アホか。痴話げんかにそんなモン呼んだら、余計にこじれるわ!」
少年の母親はそう言って笑い飛ばすと、こちらを見上げた。
「旦那、どいてなよ」
「そうだよ。お嬢さんは私たちに預けてさ。
何、この子が落ち着いてちゃんと身のフリを自分で判断付けられるまでだよ」
「そうそう。もうちょっと頭を冷やして、素直になったら迎えにおいでよ。
でなきゃ、同じ事を繰り返すに1000・ロートだね」