大地主と大魔女の娘
 

「そうそう。女はわかんねーよな! うちのカカアなんざ、一緒に連れ立って二十年年近いってぇのに未だにわかんねーもんな」

「……。」

「いや、俺は年々わからなくなってきている。女って生き物が」

「俺の娘なんざまだ十二歳だぞ? でもわかんねぇ!」

「旦那、飲んでるか」

 どういうわけか酒場に連れて来られた。

 明らかにまだ準備中だったらしく、椅子はテーブルに逆さにされて上げられていた。

 床を掃除していた店主が呆れたような声を出したが、そこに咎めるようなそぶりは無かった。


 さっさとカウンターに戻ると、注文を聞きだし始めた。

 それに答えながらめいめい勝手に椅子を戻し始めると、どっかりと腰を落ち着けだす。


 そのまま酒盛り。まだ日も高いというのに。


 男三人は杯を高々と掲げてから、ジョッキの半分近くまで一気に飲み干す。


「――で、お若いの。どうしたんだよ? 嫁っこに家出される理由は何だ? 

 金か。他の女か。それとも、ナニか」

「オマエん所と一緒にすんなよ!」

「バカ言え! どこも一緒なんだよ、こういう問題は! なっ、旦那!」


 親身なのか、面白がっているだけなのか、わからない。


「あれは嫁じゃない」

「え? そうなのか。俺はてっきり」

「何がてっきりなのかわからん」

「だってさぁ、浮気がばれた亭主みてえなツラしてたんだもんよ。なあ?」


 そうだ、そうだと同意の声が上がる。


「浮気も何も、あれとは何も無い」

「じゃあ、何なんだよ? お二人さん」

「アレは亡くなった知人の娘だ。それを引き取っただけだ」


『嫌、嫌、放して、帰らない、構わないで、ちゃんとお金は返しますから』


 突然、赤毛の男が、甲高い声で先程の娘の訴えを真似る。

 気色が悪い。思わず咽(むせ)た。


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