大地主と大魔女の娘
「で、旦那はいくつなワケ?」

「二十九になる」

「ええ! 思ったより、若っ!? その割に落ち着いているもんだからさ~」

「でも、一回りも年下かぁ。そりゃあ、お嬢ちゃんの戸惑いもわかるなぁ」

「戸惑い?」

「そりゃあ、そうだろう。自分よりもずっと年上の、しかも昨日まで見ず知らずの男に、いきなりアレコレ言われたら萎縮するに決まっているだろうよ、旦那! しっかりしてくれよ!」


「しかも、言い方がなぁ。……見ちゃおれんかったしな。旦那、あんな言い方は無い。ますます溝を深めたいなら止めないが」


「そうそう。うちのぼうずが、嬢ちゃんが可愛くてだな。ちょっかいだして、転ばせちまったらしいんだわな。……悪かった! 悪かった、旦那! そう睨まないでくれ。ルボルグにはよっく叱ってきかせたから許してくんな! で、その嬢ちゃんにも謝らせようと探してたら、あの騒ぎだろう?」


「……。」


「なあ、旦那。嬢ちゃんは、あんたをものすごく誤解していると思うぞ? ちゃんと、物事を順序だてて説明してやったのかい」


 中年の男三人の気遣う様な、好奇心から探るような視線に黙り込むしかなかった。

 それを答えと受け取ったのだろう、少年の父親が俺の背を叩く。



「じゃあ、これからちゃんと話してやれば解ってくれるって! 」


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「レオナル様。こちらでしたか」

「リヒャエル。娘は見つかったが、思ったより長引きそうだ」


 時間を過ぎても戻らなかった俺を追って、リヒャエルは港に駆けつけたのだという。

 そこで一連の騒ぎを聞いて、こちらに向って俺を見つけたらしい。

 あらかた察しをつけているであろうリヒャエルが頷いた。


「申しわけありません」

 リヒャエルが深いため息と共に謝罪する。


 何がと、問うよりも早くにその理由がわかった。


 軽やかな足どりで酒場に入ってきた人影が、奴だったからだ。


「スレン」

「来たよ」

「呼んでいない」

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