大地主と大魔女の娘


「さっきはうちの息子があんたに失礼をしたってね。怪我はしなかったかい? ルボルグ、ほら! ちゃんと謝りな」

「……。」

 一番うしろを黙って付いてきていた少年は、

 戸口に背を預けてむすっと押し黙ったままだ。

 赤みの色濃い茶髪の少年は、なるほどおかみさんに顔立ちが似ている。

 やはりぶつかった後、杖を差し出してくれた少年に違いなかった。

 少しそばかすの散った鼻の頭を掻いて、黙ったまま口を開こうとはしない。

 この少年も怒っているのかもしれない。

 何であれ、助けようとしてくれたのに嫌だなんて言ってしまったから。

 先程、地主様を勢い良くなじった勇気には驚いた。


「あの、ありがとう。助けようとしてくれて。さっきも杖を拾ってくれて、ありがとう」


 私の方も悪かったし、御礼がまだだったのでそう口にした。


「オマエ! ばかじゃねぇのか? さっきのは俺らがわざとやったんだ!」

「……。」

 やっぱり、そう、わざとだったようだ。


 カラス色が不吉に映って不快にさせたに違いない。

 深々とショールを羽織って頭を隠した。


「ルボルグ~? いいのかい、そんな言い方して。あんた、あの旦那を見て何か学ばなかったのかい? 後悔するのはアンタだよ」

「痛ぇ! 痛えって母ちゃん、耳引っぱるなよ!」

「お嬢ちゃん、うちの子もあんたに悪さをしたらしい。申しわけないよ。しかも、あいつ~! 逃げやがった。今日は夕飯抜きだ」


「いえ、あの、そんな……。私は大丈夫ですから、頭を上げてください!」

 慌てて立ち上がろうとして、うまく足に力が入らなかった。

 そのまま、またバランスを失って後ろに倒れこむ寸前で、少年が回りこんでくれていた。

 少年とは言えさすが男の子だ。

 難なく私を支えてくれている。


「ありがとう」

「……別に」

「でかしたルボルグ」

「ああ、大丈夫かい?」

 優しい少年と、おかみさん達だ。


 ありがたいな、と思った。



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