大地主と大魔女の娘


「お嬢ちゃんを迎えに来た旦那、謝ってたね」

 そこも不思議だった。

 私が謝るべきだろう。

 咄嗟の事とはいえ、彼を叩いてしまった。

 私の方こそ、叩かれるべきだろうに。

 憂鬱な気持ちで俯くと、頭をぽんぽんと優しく叩かれた。


「もう一度、訊くよ。お嬢ちゃんはどうして出てきちまったのか、自分で答えが出ているんだね?」


「はい」


 どうしてそんな事を訊くのだろう?

 そう思ったのが顔に現れていたらしく、気使うような笑みを向けられ、優しい口調で宥められた。


「うん。初対面でこんな事きいてごめんよ。たださ、あの旦那は今ひとつ解っちゃいないようだったからね」


「そうそう。どうしてお嬢ちゃんが、自分の元を出て行くなんていう行動に出たのか。ちょっと、よく解らない顔をしていたように見えたからさ。あれはよろしくないよ。これから先が思いやられるね」


「?」

 どうして「よろしくない」のだろうか?

 ますますワケがわからなくなって、首を傾げるより他に無かった。

 やはり私が馬鹿だということなのだろうか?


「あのさ……。お嬢ちゃんは、どうして旦那を置いて一人で出てきちゃったんだい?」


 遠慮がちに尋ねられた声に、きっぱりと答える。


「私がみっともないカラス娘で、彼には目障りでしかないからです」


 そう。この一言に尽きる。


「えええええ!」

「はぁあああ?」

 とかいう声で叫ばれた後、正気かと尋ねられた。

 はい、と答える。

「それでも一応は夫婦なんだろう? あんた達」

「え? 私はただの召使いですよ」


 沈黙が降りた。



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