大地主と大魔女の娘



 カラララン、と少し遠く鈴の音が聞こえた。

 お客様だろう。

 皆、そう思ってあまり気に留めなかったようだが、足音がこちらに近付く。

「母さん!」


 金髪に薄灰色の瞳という、もう一人のおかみさんとよく似た少年が飛び込んできた。



「ルイ! おまえは今頃~! 女の子に悪さして、そのまま逃げるたぁいい度胸だ。情けない!」

 確かに先程の集団で見かけた気がする。

 しかしすぐに走り去っていったので、あまりこの少年には見覚えが無かった。

「悪かったって。ごめん」

「まあ、戻ってきて謝ったから、よしとして……やっておくれね?」

「はい。もう気にしないで下さい。大丈夫ですから」

 頷いて微笑む。

 ルイという少年が、恥ずかしそうに視線を逸らせる。

 何やらルボルグ君と小突きあい始めた。仲良しだな。


「ルイ、おまえ慌てていたみたいだけど。もう用は済んだのか?」

「そうだ! ルボルグ、母さん達、大変だって!」

「何が大変なんだい?」

「さっきのおっさんと父ちゃんたちが、酒場で暴れているんだよ! マスターにあんまり騒ぎになる前に、母さんたち呼んできてくれって言われて俺、走ってきたんだ!」


「え?」


 ぽかんとしてしまう。

 地主様が酒場で暴れている? 

 また何か私の事でからかわれて、我慢なら無いくらい頭にきたのだろうか。

 動揺して、思わず立ち上がってしまった。

「それ、本当?」

「本当。何か若い兄ちゃんが来てから、殴り合いになったって」


「何、やってんだ昼間っから! もう!」

「ったく、男衆はこれだから~世話が焼けるったらないよ!」


 おかみさん達は、盛大にため息をついて腰を上げた。


< 84 / 499 >

この作品をシェア

pagetop