大地主と大魔女の娘
カラララン、と少し遠く鈴の音が聞こえた。
お客様だろう。
皆、そう思ってあまり気に留めなかったようだが、足音がこちらに近付く。
「母さん!」
金髪に薄灰色の瞳という、もう一人のおかみさんとよく似た少年が飛び込んできた。
「ルイ! おまえは今頃~! 女の子に悪さして、そのまま逃げるたぁいい度胸だ。情けない!」
確かに先程の集団で見かけた気がする。
しかしすぐに走り去っていったので、あまりこの少年には見覚えが無かった。
「悪かったって。ごめん」
「まあ、戻ってきて謝ったから、よしとして……やっておくれね?」
「はい。もう気にしないで下さい。大丈夫ですから」
頷いて微笑む。
ルイという少年が、恥ずかしそうに視線を逸らせる。
何やらルボルグ君と小突きあい始めた。仲良しだな。
「ルイ、おまえ慌てていたみたいだけど。もう用は済んだのか?」
「そうだ! ルボルグ、母さん達、大変だって!」
「何が大変なんだい?」
「さっきのおっさんと父ちゃんたちが、酒場で暴れているんだよ! マスターにあんまり騒ぎになる前に、母さんたち呼んできてくれって言われて俺、走ってきたんだ!」
「え?」
ぽかんとしてしまう。
地主様が酒場で暴れている?
また何か私の事でからかわれて、我慢なら無いくらい頭にきたのだろうか。
動揺して、思わず立ち上がってしまった。
「それ、本当?」
「本当。何か若い兄ちゃんが来てから、殴り合いになったって」
「何、やってんだ昼間っから! もう!」
「ったく、男衆はこれだから~世話が焼けるったらないよ!」
おかみさん達は、盛大にため息をついて腰を上げた。