大地主と大魔女の娘
「おや旦那。男っぷりがあがったじゃないか」
おかみさんが陽気に笑った。
おそらく旦那さんなのだろう。赤い髪のおじさんも一緒に笑っている。
そっと窺う地主様はといえば、左の唇の端は切れているし頬だって腫れている。
いい加減、下ろしてはくれないのだろうか。
まるで子供扱いだ。異を唱えようにも、それもそうかと思った。
彼にしてみたら、自分は手のかかる子供と一緒だろう。
よくよく考えてみれば、ジルナ様の私に対する扱いもそうだったと思い当たる。
確かに子供が身寄りも無く、一人でふらふらしたら少しは気に掛けるものだろう。
そう推測し納得したので、大人しく彼に抱きかかえ上げられていた。
いくらか身を任せる事にした方が、この場も早く収まるかもしれない。
そうも思ったからだ。
「はいよ、これ。酒場のマスターから請求書」
「ぼったくりすぎだ。見世物にしてやった分、観客どもからしっかりせしめただろう。それで充分つりがくる」
ぽい、と請求書を放る地主様に驚いた。
「スレンに回せ」
少し離れた所から「ふざけるな!」という怒声が届いた。
「これだけ離れているのに、耳の良い奴」と地主様は、ぼそっと呟いていた。