女子の失敗

わたしはコーヒーが苦手で、昔からミルクティーで、そりゃたまには違うものも飲むけれど、でもタチくんは、ずっとアイスコーヒーだ。

秋も、冬も…あの時も、ずっと。


タチくんとの初めてのデートは、駅の近くのカフェだった。

付き合ってはいなかった。その時わたしには彼氏がいた。でもなんというか、タチくんは、すごく熱心だった。

あまりにも熱心で、真っ直ぐで、わたしはいつしかほだされてしまった。


タチくんは。


今までの誰よりも好きだ、と言った。

こんなことは初めてだ、と言った。

電車が来なければいいのに、と言った。

手を繋いでもいいかと、照れたような、真剣な顔で聞いた。

手を握って、とても大切そうに指をなぞった。

飽きないのかと思うほど、わたしの顔を見ていた。

外だろうが中だろうが、引き寄せられて何度もキスが降ってきた。

帰したくないと言われた。

ずっとこうしていたいと、苦しいくらいに抱き締められた。

電話が鳴って、わたしが出たら?と促しても、ほっといたらええねん、とわたしに向かって微笑んだ。そして言った。


"だってもったいないやろ。せっかくお前とおれるのに。"


< 12 / 43 >

この作品をシェア

pagetop