女子の失敗
わたしはコーヒーが苦手で、昔からミルクティーで、そりゃたまには違うものも飲むけれど、でもタチくんは、ずっとアイスコーヒーだ。
秋も、冬も…あの時も、ずっと。
タチくんとの初めてのデートは、駅の近くのカフェだった。
付き合ってはいなかった。その時わたしには彼氏がいた。でもなんというか、タチくんは、すごく熱心だった。
あまりにも熱心で、真っ直ぐで、わたしはいつしかほだされてしまった。
タチくんは。
今までの誰よりも好きだ、と言った。
こんなことは初めてだ、と言った。
電車が来なければいいのに、と言った。
手を繋いでもいいかと、照れたような、真剣な顔で聞いた。
手を握って、とても大切そうに指をなぞった。
飽きないのかと思うほど、わたしの顔を見ていた。
外だろうが中だろうが、引き寄せられて何度もキスが降ってきた。
帰したくないと言われた。
ずっとこうしていたいと、苦しいくらいに抱き締められた。
電話が鳴って、わたしが出たら?と促しても、ほっといたらええねん、とわたしに向かって微笑んだ。そして言った。
"だってもったいないやろ。せっかくお前とおれるのに。"