女子の失敗

…花火みたいに、飛び散ればいいのに。

電車のつり革に、必死になって掴まりながら、思う。

窓とかドアとか車両の間とか、どこからでもいいから飛び散ればいい。わたしと同じ電車に乗ってる人みんな。

明らかに空気は薄いし、やっと入ってくる空気は汗とかいろんなものが混じってて、身体の中が腐っていく気がする。

窓に映る、ギュウギュウ詰めになった顔、顔、顔。

みんな疲れ果ていて、ひと蹴りしたらぽすん、て落ちそう。電車に転がる生首。なんてシュール。


首も手足も胴体も、飛び散ればいいのに。

そしたら人混みに紛れている痴漢だって瞬殺されて万々歳なのに。

今あたしに痴漢しようもんなら、ピンヒールで応戦してやる。踏む、殴る、刺す。ほらやっぱり、ピンヒールって凶器。


電車がいつもの駅に着く。

あたしが降りるのを邪魔するように立ちはだかる男、女、女、男。

すいません降ります、すいません、と言いながら出口のドアへ向かう。すいません、飛び散ってください一刻もはやく。

あたしの後に続いて降りてきた、あか抜けないサラリーマン。薬指の指輪。

疲れた顔をしていても、電車を降りればあったかい家とご飯が待ってる証。


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