女子の失敗
何度読んでもすんなり入ってこない、書類の文章。
集中できないのは、周りがうるさいからじゃない。いつものことだから、そんなのはもう慣れっこだ。
なのに作業が進まない。パソコンの指先は、まるで気をつけしているみたいに真っ直ぐ、力が入ってる。
…べつに。
指をグーパーしながら動かして、胸の内で唱えてみる。べつに。
べつに、向こうはあたしに恋愛感情なんて持ってないだろうし。ってゆーかあたしも好きとかじゃないし。
そんなんじゃ、ないし。
「あー!あったあったデータ!!すまん八木、あったわ!!」
…ってゆーかそもそも、あんな簡単に女をベッドにつれこめちゃう男は信用ならないし。
絶対彼氏にはしたくないし、彼女になったら苦労するだろーし。
別に何とも思ってないし、全然意識してないし。
「平松さんー、悪いんだけどこの冊子、六階まで持ってってくれるかなぁ?」
ふぅ、と息をついた時だった。
振り返ってすぐ、女上司の真っ赤な口紅が目に飛び込む。
あたしに向かってにっこり。左右対称に上がった鮮やかな赤が、微笑む。