女子の失敗
「わかりました!六階ですね」
「ごめんね~、よろしくね」
あたしもにっこり笑って冊子を受け取る。途中になっている書類を、キーボードの上に伏せて、立ち上がった。
きしりと軋む、休んでいたヒール靴。
顔を上げないまま、渡された冊子をぎゅっと胸に抱えて、エレベーターを目指す。
部署を出る時、ほんの少しだけ、振り返って室内を見た。…あの人の姿は、なかった。
ホッとして、顔を上げる。エレベーターの前に着くと、自然にため息がこぼれ出た。
─5、4、3、2。
灯るランプ。先に下の階の人が押していたのだろうか。あたしが待っている三階を、あっさりとエレベーターが通り過ぎていく。
”平松、これ先日話してた書類。今日中にいける?”
”……っあ、ハイ!”
銀色のエレベータードアに、唇をぎゅっと結んだあたしが映る。
仕事内容で埋めようとするのに、頭の中を、さっきの会話が延々とリピートし始める。
”平松、これ先日話してた書類。今日中にいける?”
ハイだけはそっけなかったかな、とか。声がうわずった気がするとか。
答えるのに時間かかったんじゃないか、とか。