女子の失敗
…っていうか。そもそも答えるのに時間がかかったのは別に、意識してたからとかそんなんじゃない。
だから、べつに、リピートしなくたっていい。そんな必要ない。
平松。平松。平松。
なのにどうして繰り返すんだろう。
どうして今朝から、あの人の声ばかり頭に入ってくるんだろう。
どうして浮かぶんだろう、あの人のことばかり。違うのに。そんなんじゃないのに。
…普通に業務連絡されてホッとしたとか。
普通にされたことに、寂しくなったとか。声が近かったとか。
昨晩のことを思い出したとか、ほんとは後悔してるとか、
心臓がぎゅっとしたとか、
すこし切なくなったとか、
全然、全然、べつに。
─5、4、3、2、1、2、3。
一度下りて、またわたしのいる階まで上がってきたエレベーターボタンのランプ。
その扉が開いた。結ばれていた唇が緩んで、思わずハッと息を呑んだ。
「…お…つかれさま、です」
その中にいたのは、先輩だった。
「おー、おつかれさん」
ひゅっと、喉の奥が空気を掴み損ねる音がした。
穏やかな先輩の笑顔に、わたしも笑い返してエレベーターに乗り込む。