女子の失敗
うん。笑えた。笑えてる。さっきは驚いただけ、だって何も意識することなんてないし、そういうのじゃないし、べつに。
…べつに。
チン、と音を立てて、エレベーターが閉まる。
生まれてしまった二人きりの空間が、心臓を打つ。心臓を。心臓が。血が。違う。ドキドキする必要なんてないし。
…べつに。
息がつまる。違う、だってべつに先輩じゃなくたって、二人きりのエレベーターってそういうものだし。
…べつに。
緊張なんてしなくていいし第一してないし、
早く着いてエレベーター。違う、べつに、ただあたしは急いでるだけで先輩がいるからなわけじゃない。べつに、
べつに。べつに。べつに。
べつに。
「………っ!」
コツン、と。
後ろから、ぶつかった感触。
肩が跳ねる。
息が止まって、心臓も止まる。
今朝起きてから。何十何百と唱えてた″べつに″が、全部ぶっ飛ぶ。
「…なぁ、平松」
偶然じゃなくて、故意に。
かかと、わたしの。
つま先、彼の。彼の、
彼から触れた、いま。
「はは、何泣いてんだよ」
「……っ、」
あなたが
すきです。