花
…風の強い夜だった。
せっかく咲いた桜の花が、
全部 散ってしまうのではないか と 思われる程 強く吹き荒れる中を、
和は一人、学校へと向かっていた。
生徒達が とっくに帰ってしまった夜の学校は
静まり返っていて、不気味だ。
何人かの先生方が残る職員室の窓の明かりだけが ぼんやり と 見えていたが、
和が今から行こうと している教室も廊下も真っ暗で、
人の気配は全く無いように、思えた。
そっと校内に入り込むと、
余計な事を考えなくて済むよう、足早に教室を目指す。
忘れ物は、自分の席にある筈…だった。
そこら中にある、非常口や火災報知器の僅かな明かりを頼りに教室に辿り着くと、
和は急いで中へと足を踏み入れた。
しかし踏み入れた瞬間、
あまりにも吃驚して、心臓が止まりそうに なった。
誰も居ないと思っていた筈の其処に、人が居たから。
落ち着いて よく見ると、それはクラスメイトの貴史だったのだが…
次の瞬間、和は その場から動けなくなった。
宗谷 貴史という人は、
普段から 本当に動いたり喋ったり するのだろうか と 思うほど、整った 人形みたいな容姿の持ち主で、
月明かりを受けて窓を背に佇む今の姿が…ただ、この世のもの とは思えない程 綺麗だった。
″彼″という素材と、″夜″と″桜″が似合い過ぎていて、
和は金縛りに あったかの ように、その光景に見惚れていた。