Lonely Lonely Lonely
そして、店へ行くと、
みるくが既に酔っていた。
「いらっしゃいませ」
出迎えの水野くんに、ジャケットを預ける。
「瑠璃子さん、いつもいい香りですね。ほんのりと」
「ありがとう。そう言われると、とても嬉しいわ」
「そうなんですか。そんなに控えめにしているのは、やっぱり、お客様を想ってのことですか?」
「いいえ。仕事中は、香水は使わないの。外出する時だけ、ほんのワンプッシュね」
「そうなんですか~。素晴らしいですね」
「そう?」
感心しきりの彼に、私は首を傾げながら、尋ねる。
「こういう仕事してると、香水、きっつい女性によく出合うんですよね。中にはむせかえりそうになる程、酷い事も。
だから、俺、香水って苦手なんだけど、
瑠璃子さんのは、別だなあと思えるんですよ」
「嬉しいわ。ありがとう」
「やっ、そんな……」
水野くん、若干照れ気味の様子。
以前は、年下になんて見向きもしなかったが、この店に通うようになってから、
かわいいな、と思えるようになった。
香水に関しては、以前は私も〈きっつい女〉だった。
貴志さん〈星野先生〉に、言われてからだ。香水控えろと。
聞けば、奥さんも香水好きで、外出する時だけでなく家にいる時もプンプンさせているらしい。
何度か、その大量の香水、処分してくれと頼んだが、全く言うことを聞いてくれないと。
どうやら香水のコレクターのようで。
帰宅すると、香水くさい我が家に、うんざりし、頭にきて煙草を吸おうとすると、
「やめてよ!子供がいるんだからっ……てさあ、おい。じゃあお前の香水は、どうなんだ、って話だよな?」
「そう、言えばいいじゃないですか」
「言ったよ。そうしたら、香水は大丈夫でしょう?って開き直る。おかしいだろう?」
おかしい。おかしい。
別れてください。
貴志さん、そんな人とは、別れてください。
とても言えない、一言。